ラジオホームドクター

診療科 出演者 放送日 テーマ
【耳鼻咽喉科】 岡田医院耳鼻咽喉科
岡田 貞二
12月30日
木曜日
嚥下障害の診断
12月31日
金曜日
嚥下障害の治療

嚥下障害の診断(12月30日木曜日)
A. = アナウンサー / D. = ドクター(岡田先生)

A. ラジオホームドクター。岐阜県医師会がお送りします。
今日は美濃市の耳鼻咽喉科、岡田貞二先生にお話しを伺います
先生よろしくお願いします。
D. よろしくお願いします。
A. 先生今日はどんなお話でしょうか。
D. 嚥下障害についてお話しようと思います。
A. 嚥下って耳慣れない言葉ですが、それはどうゆうことですか。
D. 『飲み下すことです』口の中の食べ物を胃に送り込む過程を言います。
つまり嚥下障害とは、この口から胃に入るまでに起こるトラブルのことを言います。
ところで去年一年間で日本人は120万人が死亡しました。
死因の第一位は御存じですか。
A. 癌ですか?
D. ええそうです。第二位は心臓病、第三位は脳血管障害です。第四位が肺炎で10万人程が亡くなっています。
この内65才以上の高齢者の占める割合は95%にもなります。
そして2分の1から3分の1が嚥下障害によって起こる誤嚥性肺炎です。
誤嚥性肺炎とは口の中の食物などが、食道に入る途中で誤って肺に流れ込み、肺炎になってしまうことです。
日本では高齢化社会を反映して、今、嚥下障害のある高齢者が増加しています。
A. 嚥下についてもう少し詳しくお願いします。
D. はい、首の真ん中の喉仏は、甲状軟骨と言います。この軟骨に囲まれた部分を喉頭といいます。
ここは、食道と肺の分岐部です。気管は、肺の入口で、声帯によって開いたり、閉じたりしています。
食道は、嚥下した時にのみ開きます。嚥下は意識的に始まり、無意識的反射運動に移行する運動で3期に分かれます。
第I期は口腔内のものを中咽頭へ移動させる意識的運動で主として舌運動によるものです。
第III期は無意識的で咽頭期と言われ、嚥下運動では最も重要で延髄に局在する嚥下中枢にプログラム化され、制御された一連の運動で、嚥下反射とも言われています。
たとえて言えばまるで高速道路のETCゲートの様に食物の塊が車とすると、センサーは喉の奥の口蓋垂(喉ちんこ)のあたりです。
この嚥下を感じる部位は3種類の脳神経が関与しています。
食物の塊がこのセンサーに接触すると0.7から0.8秒という瞬時に喉の筋肉によって、喉仏が上に引っ張り上げられます。
次に声帯の上の方にある喉頭蓋という蓋が喉を塞ぎ、これと同時に、声帯と仮声帯が内側に巻き込まれ、肺に食物などが入らないように、2重に肺の入口を塞ぎます。
またこれと同時に、食道の入り口が開き、食べ物の塊は陰圧になっている食道の中に吸い込まれます。
ここからが第III期で、無意識的運動の蠕道運動により食道から胃に送られます。
つまり呼吸をしながら、嚥下はできません。
A. ではそろそろ嚥下障害についてお話ください。
D. はい嚥下障害を引き起こす疾患には、脳血管障害や、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病など高齢者に多い脳に関する疾患に多く認められます。
脳に障害があると、脳の黒質線条体からのドーパミンの分泌が減少し、神経刺激伝達物質であるサブスタンスPが減少し、咳反射や嚥下反射が低下するため、誤嚥性肺炎になり易くなると考えられています。
この他に腫瘍などによる頸部の変形や、食道の圧迫、重症筋無力症とか多発性筋炎などで起こります。
A. では次に、嚥下障害の診断について教えてください。
D. はいわかりました。まず問診を行います。
食物が飲み込みにくいかどうか、食事の時むせることがあるかどうか、たびたび37度代の発熱があったりするかどうか、食事に以前より時間がかかる様になったかどうかです。
次に頸部の聴診を行います。喉の泡立ち音、湿った呼吸音、ウガイ音などですが、これらは嚥下がうまくいかないと、喉頭に唾液が溜まって出る音です。
次に嚥下反射が正常であるかどうかの検査です。反復唾液嚥下試験を行います。30秒間に何回唾液を飲み込めるか、3回以下を異常と判定します。
そして、水飲み試験です。3mlの冷水を飲ませてむせるかどうか、飲み込み方の異常を判定します。
次に咳反射に対する検査として、咳誘発検査を行います。カプサイシン、唐辛子のことですが、これを少量飲ませて、咳が出るかどうか観察します。咳が出なければ、陽性です。
A. その他にどんな検査がありますか。
D. 嚥下内視鏡検査のように、直接嚥下障害を見ることのできる検査もあります。
嚥下器官である、咽頭や喉頭の機能や運動障害とか腫瘍の有無を、内視鏡で観察する方法で、耳鼻咽喉科医にとって必須の嚥下機能検査です。
観察のポイントは、非嚥下時の声帯や咽頭麻痺の有無、喉頭の唾液貯留の程度や嚥下反射の起こり方や、少量の着色水を嚥下させて誤嚥の有無を判定します。
次に嚥下造影検査を行います。 造影剤を嚥下させて、口腔、咽頭、食道などの形態と機能をX線透視下に観察します。
この検査は、すべての嚥下運動を評価することができ、最も診断的価値の高い検査です。
以上 嚥下と、その障害、そして診断についてお話ししました。
食物を食べる欲求は、人間の最も強い本能の一つであり、豊かな日常生活を送るうえで円滑な咀嚼と嚥下運動は欠かせません。
明日は嚥下障害の薬物療法、リハビリテイション、予防、そして手術についてお話したいと思います。
A. よくわかりました。ありがとうございました。
今日は嚥下障害について、美濃市の耳鼻咽喉科、岡田貞二先生にお話ししていただきました。
ラジオホームドクター岐阜県医師会がお送りしました。

嚥下障害の治療(12月31日金曜日)
Q. = アナウンサー / A. = ドクター(岡田先生)

A. ラジオホームドクター。岐阜県医師会がお送りします。
今日は、美濃市の耳鼻咽喉科、岡田貞二先生にお話しを伺います。
先生よろしくお願いします。
D. よろしくお願いします。
A. 先生、昨日は嚥下障害の診断等についてのお話しでしたが、今日はどんお話しでしょうか。
D. 今日は嚥下障害の薬物療法と、予防やリハビリテーション、そして手術療法についてお話ししたいと思います。
A. 薬物療法にはどんなお薬があるのですか?
D. はい、一つは降圧剤です。アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)と言われるものです。
次にパーキンソン病の治療薬である塩酸アマンタジン、そして漢方薬の半夏厚朴湯です。また薬物ではありませんが、唐辛子の辛味成分であるカプサイシンが、嚥下障害を改善させることが、報告されています。
これらの薬剤を有効利用して治療をおこないます。
まず、ACE阻害薬ついてです。嚥下の時に食べ物が喉のセンサーに触れると、3種類の脳神経を通して、20種以上の筋肉が調和して収縮し、嚥下反射が起こります。
この時の神経物質として、11個のアミノ酸からなるサブスタンスPがかかわっていることが、知られています。
脳障害があり、嚥下障害のある患者さんでは、このサブスタンスPが、血中で低下していて、嚥下反射や咳反射が、起こりにくくなっていると考えられています。
このACE阻害薬を、脳障害のある患者さんに投与しなかった例では、28%の方に肺炎が発生し、投与した患者さんでは。7%に肺炎がみられたと報告されています。つまり21%、肺炎になる人が減少したことになります。
つまり、ACE阻害薬は、血中のサブスタンスPが分解されるのを抑制し血中濃度を、上昇させることにより、嚥下反射を増強させ、誤嚥を防ぐのです。
高血圧で薬を内服している患者さんで、空咳が以前より多くなって困っている方は、このACE阻害薬で、咳反射が亢進していることが考えられますので、主治医に相談してください。
A. 他の降圧剤でも咳が多くなりますか?
D. いいえ、このACE阻害薬だけです。
A. 他に副作用はありますか?
D. くしゃみや鼻づまりが起こることもあります。
次に塩酸アマンダジンはパーキンソン病に用いられる薬です。この薬は脳内にドーパミンを放出、促進させる薬です。
大脳基底核という部位に脳梗塞などが起こると、ドーパミン濃度が低下し、サブスタンスPの濃度も低下します。
この患者さんにアマンダジンを投与しなかった例では28%に肺炎が発生し、3年間投与した例では6%にしか発症しなかったと報告されています。
また漢方薬である半夏厚朴湯でも嚥下反射が改善されるという報告もあります。
次は嚥下障害の予防についてお話しします。
先程お話しした様に薬物の予防的投与は、脳血管障害やパーキンソン病の、誤嚥性肺炎を70〜80%減少させることが、わかっています。
次に噛む力、飲み込む力の弱った方は、食事形態の工夫が必要です。
食物を嚥下し易いように、細かくしたり、パサパサした物に粘着剤のトロメリンをまぶしたり、ミキサー食にして、嚥下性肺炎を予防します。
嚥下障害があると、摂取量が低下し、栄養状態が悪くなってしまい、その結果、体力や免疫力が低下し、病気が悪化してしまいます。
粘着剤のトロメリンは、とろみをつけることで、口から喉への送り込みが良くなり、水分でむせる患者さんでも、これを入れることによりむせなくなります 餅や海苔、わかめ、ウエハス、パン粥も窒息の危険があります。
その他、嚥下性肺炎の予防には、口腔内を清潔に保つ様に歯磨きや、うがいも必要です。
A. うがいや歯磨きは、何度してもよいものですか?
D. 全くかまいません。
口の中の細菌のバランスも崩れたりしません。安心してください。
次に、あらゆるものを誤嚥し、唾液すら飲み込んだ時にむせる場合は、鼻からの経管栄養となります。
A. 時間も少なくなりました。嚥下障害のリハビリテーションについて教えてください。
D. スポーツをする前に準備体操をする人は、沢山いますが、食物の飲み込みにくさを、感じる人にとっても嚥下の準備体操は有効です。
障害が軽い人はこれだけで上手に飲み込めるようになります。食事の前に数分間行うだけで効果があります。
まず、ゆったりと深呼吸をします。次に首をゆっくりと回し、前後、左右に曲げます。肩をあげてストンと落とします。
口を閉じ、頬を膨らませます。口を大きく開けたり、口唇をとがらせたり、舌を前に出したりします。
次は、舌の訓練です。舌にスプーンをあて後方に押します。その力に負けないように舌でスプーンを押し返します。
その他、口唇や頬の訓練、呼吸の訓練もおこないます。
次は、嚥下障害の外科的治療法です。経管栄養を行っても、肺炎を起こす場合は、胃ろうを考慮します。
腹部に穴をあけ、胃に直接栄養を注入します。また 嚥下機能改善手術や、誤嚥防止手術、喉頭摘出術などを行います。
以上です。ありがとうございました。
A. よくわかりました。ありがとうございました。
今日は嚥下障害について、美濃市の耳鼻咽喉科、岡田貞二先生におはなししていただきました。
ラジオホームドクター、岐阜県医師会がお送りしました。