ラジオホームドクター

診療科 出演者 放送日 テーマ
【外科】 近石病院
服部 達明
(はっとり たつあき)
9月20日
木曜日
脳卒中を予防するための十か条
9月21日
金曜日
慢性硬膜下血腫について

脳卒中を予防するための十か条

Q:先生、今日はどんなお話でしょうか?
A:脳卒中についてお話します。
Q:まず、脳卒中とはどのような病気ですか?
A:脳卒中は脳血管障害ともいわれ、脳の血管に何らかの問題が起こって、脳に障害を来す病気です。脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳内の血管が破裂する「脳出血」、脳表面の血管にできた動脈瘤が破裂する「くも膜下出血」の3つのタイプがあります。最近では脳梗塞の患者さんが増えてきており、約7割を占めるようになってきました。脳卒中は一旦起きると、命にかかわることもあり、たとえ命が助かっても手足の麻痺や言葉の障害、歩行障害などの後遺症が残ることが多く、また再発しやすいのも特徴ですので、発症しないようにしたり、再発しないようにするための予防が極めて重要になってきます。
Q:それではどのようなことに注意すれば脳卒中の予防ができるでしょうか?
A:脳卒中の発症には高血圧や糖尿病といった生活習慣病や、喫煙・多量飲酒といった乱れた生活習慣が深く関与しています。日本脳卒中協会では、脳卒中を予防するための注意点を川柳調にまとめた十か条を作成していますので、ここでご紹介させていただきます。
Q:まず、第1条から5条までお願いします。
A:十か条の第一は、「手始めに高血圧から治しましょう」です。脳卒中は血圧の高い人に起こりやすいことがよく知られています。高血圧になると、脳の血管に強い圧力がかかり、傷つきやすくなるため、脳の血管が詰まったり、破れたりする危険性が高くなります。高血圧があっても自覚症状が無いことがほとんどですが、放っておいて脳卒中になってから後悔しても手遅れです。血圧が高い人は医師の指導に従って血圧の管理を心掛けましょう。
第二条は「糖尿病放っておいたら悔い残る」です。糖尿病も特に症状がない人がほとんどですが、放置すると全身の血管に動脈硬化をきたし、様々な合併症を引き起こします。糖尿病の人はそうでない人の2〜4倍も高い頻度で脳梗塞になるといわれています。糖尿病を指摘されたら、医師の診察を受け、正常な血糖値を維持するように努めましょう。
三番目は「不整脈見つかり次第すぐ受診」です。心臓の脈のリズムが乱れることを不整脈といいますが、その中でも心房細動という不整脈は、心臓の中に血栓という血の塊ができやすくなり、この血栓が脳に飛んで脳の血管をつまらせる心原性脳塞栓症を起こすことがあります。心房細動のある方は、無い方に比べて脳梗塞を発症するリスクは約5倍も高くなるといいます。脈のリズムが不規則だと感じたら、すぐに病院を受診しましょう。
第四は「予防にはタバコを止める意志を持て」です。喫煙は脳卒中を含め様々な病気を引き起こし、「百害あって一利なし」です。脳卒中で寝たきりになりたくなければ、禁煙をするしかありません。
五番目は「アルコール控えめは薬、過ぎれば毒」です。アルコールは適度であれば「百薬の長」ですが。飲み過ぎは体に毒で、脳卒中になる危険性が高まります。お酒は適量を楽しむようにしてください。
Q:続いて第6条から第10条までをお願いします。
A:第六条は「高すぎるコレステロールも見逃すな」です。血液中のコレステロール、特に悪玉コレステロールといわれているLDLコレステロールが増えると、動脈硬化が進みやすくなります。コレステロールの値が高くても自覚症状はありませんが、見逃されると知らないうちに動脈硬化が進んでしまい、ある日突然脳卒中を引き起こすことがあります。
七番目は「お食事の塩分・脂肪控えめに」です。「医食同源」という言葉がありますが、食生活習慣の改善は非常に重要です。食事はバランスよくとり、塩辛いものや油っこいものは控えめにした方が良いでしょう。
第八は「体力にあった運動続けよう」です。運動習慣のある人はない人に比べて、脳梗塞の発症リスクは約6割も低くなるという報告があります。まずは一日30分以上歩くことから始めることをお勧めします。
九番目は「万病の引き金になる太りすぎ」です。肥満は様々な生活習慣病の原因となり、肥満の解消は脳卒中の予防にもかかせません。検診でメタボと言われた方は、食生活や運動不足を見なおして、減量を目指しましょう。
最後の第十条は「脳卒中起きたらすぐに病院へ」です。脳卒中による命の危険を防ぎ、後遺症を軽くするには、早めの治療が第一です。脳卒中の症状は突然起こるわけですが、片方の手足のしびれや麻痺、呂律が回らない、視野の半分が欠ける、経験したことのない激しい頭痛がするなどという時は、そのまま様子を見るのでなく、できるだけ早く医療機関を受診するようにしてください。

慢性硬膜下血腫について

Q:先生今日はどんなお話でしょうか?
A:慢性硬膜下血腫についてお話します。
Q:慢性硬膜下血腫とはどのような病気ですか?
A:慢性硬膜下血腫という病名はあまり聞きなれない方が多いかと思いますが、脳神経外科ではよくお目にかかる、ありふれた病気です。誰でもなる可能性があります。
脳は硬い頭蓋骨で覆われて守られていますが、その頭蓋骨の下には、ちょうど卵の殻の下に薄い膜があるように、骨を裏打ちしている硬い膜があり、これを硬膜と呼びます。さらにこの硬膜の下には蜘蛛の巣を張ったような薄い膜があり、これをくも膜と呼びますが、こちらはくも膜下出血という病名でお馴染みかと思います。まぎらわしいですが、慢性硬膜下血腫というのはくも膜ではなく、その上の硬膜の下に血液が徐々に溜まってきて脳を圧迫して症状をきたす病気です。比較的高齢者に多くみられます。
Q:その原因は何ですか?
A:多くの場合、頭を打ったことがその原因です。それもひどい怪我ではなく、机の角や鴨居でコンと軽く頭を打ったとか、車から降りるときに頭をちょっとぶつけたとか、雪道で滑って転んだなどといった程度の軽い外傷であることが多く、本人が頭を打ったことを覚えていないこともあります。そのような軽い頭部外傷の直後は、検査しても何も異常が無いことがほとんどですが、その後じわじわと硬膜と脳との隙間に出血が続き、3週間とか数ヶ月してから症状が出てきて、進行するといった経過をたどることが多いです。なぜ出血が止まらずに、脳を押しつぶすほどにどんどん血液が溜まってくるかのメカニズムについては、まだ完全には解明されていません。
Q:どのような症状が出るのですか?
A:頭痛が出ることがありますが、高齢者では不思議と頭痛がないことも多いです。半身の手足の麻痺や言語障害がでてきたり、認知症のような症状がでてきて進行したり、元気がなくどうも様子がおかしいといったことで連れて来られることもありますし、重症例では意識障害をきたして救急車で搬送されるケースもあります。
Q:どのような検査をするのでしょう?
A:なかなか話だけでは診断がつきにくく、他の内科疾患とか脳梗塞や認知症と誤診されることもありますが、まずは頭部CTあるいはMRIを検査すれば診断はつきます。
Q:治療はどのようにするのでしょうか?
A:診断が付けば治療法はほぼ決まってきます。自然に治る可能性は稀ですので、手術で溜まった血液を抜くことが必要になります。局所麻酔下に頭皮を小切開し、頭蓋骨にドリルで小さな穴を開け、そこから硬膜と脳の間に溜まった、流動性の固まらない古い血液を吸い出して除去し、血腫内部を水できれいに洗浄することを行います。これを穿頭術といいますが、脳神経外科の手術としては比較的簡単で、局所麻酔ですので、かなりの高齢者や全身合併症のある方でも手術可能です。血液を抜いてやると脳の圧迫が解除されて、脳に問題がなければ、症状は改善することが期待できます。手術時間も1時間程度です。経過が順調であれば手術直後から症状が改善し、入院期間も1〜2週間くらいです。
Q:手術に伴う危険性はどのようなものがありますか?
A:手術ですからいくら比較的簡単とはいえ、100%安全ということはありません。稀には手術で脳を傷つけたり、脳出血や感染を起こすことがあり、それにより致命的となったり後遺症が残ることが無いとは言えません。しかし放置すれば血腫は増大し、症状はどんどん進行し、命にかかわることもあるので、手術をお勧めすることになります。また手術しても1割くらいの方は血液が最貯留して再発することがあり、再手術が必要になることがあります。
慢性硬膜下血腫のほとんどは、正しく診断され、タイミングを逸することなく治療が行われれば完治する予後の良い疾患ですので、このような病気があることを知っていただき、特に高齢者で進行する症状があるときは、脳神経外科の専門医を受診していただいてCTなどの検査を受けていただければと思います。