ラジオホームドクター

診療科 出演者 放送日 テーマ
【外科】 岐阜市民病院(岐阜市)
杉山 保幸
(すぎやま やすゆき)
11月20日
木曜日
がんに対する免疫療法(分子標的療法)
11月21日
金曜日
がんに対する免疫両方(免疫細胞療法)

がんに対する免疫療法(分子標的療法)

【今日は、岐阜市の外科 杉山保幸先生にお話を伺います。先生、よろしくお願いします。】

【よろしくお願いします。】

【先生、今日はどんなお話でしょうか。】

【日本人の死亡原因のトップである“がん”に対して行われている免疫療法について、最近のトピックスをお伝えしたいと思います。生命を脅かす怖ろしい病気の“がん”に対しては、手術、抗がん剤治療、放射線療法の3つがよく知られています。早期の胃がんや大腸がんなどに対して胃カメラや大腸カメラを用いて切除する場合は別として、いわゆる外科手術としてがんを取り除く方法は、からだにキズをつけ、正常な部分も一部含めて取りますので、いろいろな負担がかかります。また、従来の抗がん剤を用いた治療では食欲が落ちたり髪の毛が抜けたりといった副作用が伴います。さらに放射線治療も局所にとどまっているがんには効果が期待できますが、がんの周りの細胞にも障害を及ぼすことがあり、治療回数にも限界があります。それと比べると、免疫療法は本来からだに備わっている“免疫”という機能を利用してがんをたたく治療ですので、副作用がほとんどありませんし、目に見えないミクロのレベルのがん細胞をたたくこともできます。

【もう少し“免疫”ということについてわかりやすく説明して下さい。】

【生物のからだの中には本来“自分にとって余分なものは追い払おう、あるいはからだの外から攻撃してくるものがあれば、それを防御しよう”という力が備わっており、これが免疫能力です。
“がんもからだにとっては余計なものであるため、免疫の力でがんを退治することができるのではないか。”という考えのもとに長年にわたって研究がなされてきました。その結果、正常な細胞には存在せず、がん細胞にだけみられるような物質が次々と発見されました。また免疫を担当するリンパ球などががんを退治する仕組みや、からだの中で免疫機能がうまく働かなくなってしまうメカニズムが明らかにされました。これらの新しい知識をもとにして、免疫でがんを攻撃する手段が詳しく検討され、実際の治療に使われるようになりました。このような成果に対して『サイエンス』という世界でも指折りの科学雑誌が、2013年で最も画期的な進歩を遂げたのはがん免疫療法であるという高い評価を与え、がん治療の分野に新たな希望の光が見えてきました。】

【具体的にはどのような免疫療法があるのでしょうか?】

【現在、がんに対する免疫療法は大きく分けると、分子標的療法、免疫細胞療法、がんワクチン療法、非特異的免疫療法、サイトカイン療法、の5つがあります。その中で、最も期待が高まっているのが分子標的療法です。 
がん細胞には所構わず増殖する、あるいは転移するという性質があります。科学技術の進歩によって、正常な細胞には存在せずがん細胞だけに認められてがんの増殖を促進する物質や、転移する時に重要な働きをする物質が確かめられています。これらの物質を狙い撃ちすればがんを退治できるのではないかと考えられるようになり、この治療作戦が分子標的療法と名付けられています。
用いる薬として、化学合成して作られる低分子医薬品と、細胞を用いて作られる抗体医薬品とがあります。低分子医薬品は錠剤がほとんどですが、標的とする物質以外にも作用して予期せぬ副作用をきたすことがまれにあります。一方、抗体医薬品のほとんどは注射剤で、標的以外の物質に作用することがほとんどないため、思わぬ副作用が出ることはまずありません。】

【低分子医薬品を用いた場合も、抗体医薬品を用いた場合も免疫療法になるのですか?】

【いいえ、違います。低分子医薬品は広い意味での抗がん剤治療に含まれます。抗体医薬品を用いて治療を行う場合が免疫療法になります。
抗体医薬品は効果を発揮するメカニズムによって2つに大別されます。一つは正常な細胞には認められずがん細胞だけに存在する物質を狙い撃ちする抗体で、白血病やリンパ腫という血液のがん、乳がん、胃がん、大腸がん、そして頭頸部がんと言われる口、耳、鼻、のどにできるがん、などで使用されています。もう一つは、免疫を担当するリンパ球の働きを抑えて、がんを攻撃できないようにしてしまう物質をがんが作り出していることが証明されています。この仕組みは『免疫チェックポイント』と呼ばれているのですが、この部分を調節することでがんを破壊するリンパ球をもう一度復活させようという画期的なアイデアが提案されました。これが有名な科学雑誌の『サイエンス』で高い評価を受けたのですが、現在は皮膚がんの一つである悪性黒色腫に対して使われています。ただ、抗体医薬品は治療費が高いことが難点です。治療の適応となるがんと闘病中の患者さんは担当医とよくご相談されることをお勧めいたします。】

【ありがとうございました。今日はがんに対する免疫療法について岐阜市の外科 杉山保幸先生にお話していただきました。】


がんに対する免疫両方(免疫細胞療法)

【今日は、岐阜市の外科 杉山保幸先生にお話を伺います。先生、よろしくお願いします。】

【よろしくお願いします。】

【先生、今日はどんなお話でしょうか。】

【がんに対して行われている免疫療法のうち、最近よくお問合せのある免疫細胞療法とワクチン療法について話題を提供させていただきます。
まず免疫細胞療法ですが、がん細胞を直接攻撃する細胞をからだの外で育て、しかも数を増やした上で体内に戻すという治療方法です。ナチュラル・キラー細胞、がん特異的細胞傷害性T細胞、αβT細胞、γδT細胞、ナチュラル・キラーT細胞、などと呼ばれる細胞戦闘部隊が薬として調整され、がんとの闘いに挑みます。
iPS細胞の医療への応用が注目を集めていることはよくご存知かと思いますが、iPS細胞を含めたいろいろな加工細胞を用いる治療に関しては、『再生医療安全確保法』、および『改正薬事法』が昨年11月に国会で成立し、この秋から施行されることになっています。きちんとした法律制度の上で加工細胞による治療を行うことが目的となっています。
現在、免疫細胞療法は日本では先進医療あるいは自由診療として行われていますが、ごく一部の患者さんしか治療が受けられないのが実情です。そこで、厚生労働省が、安心して使える様々な加工細胞をより早く供給し、有効でかつ安全な治療が速やかに承認されるシステムを作り上げてくれたわけです。多くのがん患者さんにからだにやさしい免疫細胞療法を受けていただける時代が近い将来やってくるものと期待しています。】

【がんのワクチン療法についても研究が進んでいるようですが、わかりやすく解説して下さい。】

【ワクチンは細菌やウイルスなどによる感染症の予防のために用いる医薬品で、ポリオや風疹、はしか、インフルエンザ、肺炎、などに対するワクチンがよく知られています。細菌やウイルスの特徴をからだに覚えさせておいて、それらが侵入してきたら撃退するという、まさに免疫力で病気を防ごうというものです。
がんとの関連では、ヒトパピローマウイルスの持続感染が子宮頸癌の原因になることが分っており、日本では唯一、予防ワクチンが認められています。
一方、がんをすでに患っている場合においてもその理屈が通用するのではという仮説のもとに研究が行われているのが、がんワクチン療法です。すなわち、正常な細胞には認められずがん細胞だけに存在する物質を人工的に作成し、それを“外敵”として認識させてがんを攻撃する免疫力を高めようという作戦です。『敵が攻めてきた』という判断を下し、攻撃を指示する司令官の役割を果たすのが樹状細胞と呼ばれるものなのですが、からだの中で樹状細胞を刺激する方法がペプチドワクチン療法、一旦からだの外へ取り出した樹状細胞にワクチンを覚えこませて、もう一度からだの中に戻す方法が樹状細胞ワクチン療法です。ペプチドワクチン療法は、現在、世界の各地でその臨床試験が行われており、結果が待たれるところです。また、日本国内ではペプチドワクチン療法、樹状細胞ワクチン療法ともに、先進医療あるいは自由診療として実施されており、一定の成果が得られています。】

【今日のお話があった免疫細胞療法やワクチン療法はまだ広く普及しているわけではないようですが、実際に保険診療で認められている免疫療法はあるのでしょうか。】

【はい、あります。非特異的免疫療法とサイトカイン療法の2つがあります。
まず一つ目の非特異的免疫療法は、からだの防御能力や抵抗力を全体的に高めることでがんに対する攻撃力も強めようとするものです。キノコ類やばい菌から抽出・精製された成分にからだの免疫能を高める作用や低下した抵抗力を元に戻すといった作用のあることが確かめられています。使用できるがんの種類が限られており、抗がん剤との併用が指定されているものもありますが、保険診療で医薬品として認められています。また、漢方薬の中には免疫機能を高める働きのあることが証明されているものがあります。漢方薬は飲み薬となりますので、原則として飲んだり食べたりすることができる患者さんが対象となりますが、がんの種類にとらわれずに使用することができます。
二番目のサイトカイン療法ですが、サイトカインは本来、細胞と細胞の間の情報伝達を担う物質とされており、がん細胞が増えることを妨げたり、がんを攻撃するリンパ球に指令を出す働きを持っています。このような物質を薬として用い、がんの治療を行うのがサイトカイン療法です。B型やC型の慢性肝炎に対するインターフェロン療法はご存知の方も多いと思いますが、腎臓のがんや血液のがん、脳のがんに対してもインターフェロンの治療効果が認められています。また、インターロイキン2というサイトカインが、腎臓のがんと血管肉腫に使われています。】

【ありがとうございました。今日はがんに対する免疫療法について岐阜市の外科 杉山保幸先生にお話していただきました。】