ラジオホームドクター

診療科 出演者 放送日 テーマ
【外 科】 卯月医院
(岐阜市)
加藤 利政
5月15日
木曜日
外来での麻酔科の仕事
5月16日
金曜日
保険でできる美容形成外科手術

外来での麻酔科の仕事(5月15日木曜日)
Q. = 司会 / A. = 加藤

Q. 今回は岐阜市の外科、卯月医院の加藤利政先生に、「外来での麻酔科の仕事」についてお話し頂きます。よろしくお願いします。
A. よろしくお願いします。
Q. 麻酔科は手術室で全身麻酔を行う科と思っていました。外来もあるのですか?
A. 私の恩師の故山本道雄岐阜大学名誉教授は、「麻酔科の将来のために、活動の場を広げる必要があります。その一つに、一般医師と同様、診療所を開設・運営する事も含まれます。その際、ペインクリニックが他科との違いを明らかにし、役立つはずです。」と常々仰られて、自ら外来に立ち、病棟回診をしておられました。
その姿こそ、私の麻酔科外来の医師の原点です。
Q. ペインクリニックって何ですか?
A. 痛みを取る診療所の事です。私共麻酔科が行う局所麻酔法を利用して痛みを取る方法をブロック療法と言います。従来、外来で行われる薬物療法と理学療法にブロック療法を加える事で、ペインクリニックでは完璧に痛みを取り除く事が可能となりました。
Q. どのような病気に用いるのですか?
A. 頭、顔面、頚部(首)、肩、上肢(腕)、胸部、腹部、腰部および下肢(足)と言った全身の慢性的な痛みです。
Q. 具体的な例を挙げていただけますか?
A. 病院および介護施設に入院していない人の自覚症状の第1位は腰痛です。人口で言えば約10人に1人が、65歳以上では約5人に1人が自覚されています。
これ程の人が腰痛を自覚されている事は、外来で通常行われてきた薬物療法と牽引などの理学療法だけでは限界がある事を示していると思われます。
手術の主眼が病状の進行停止であり、現症状、即ち腰痛の改善でない事は、腰下肢痛を取り除く事がいかに困難であるかを示しています。
さて、ここにブロック療法を加えてみるとどうなるでしょうか。局所麻酔を行えば、手術が無痛で行える訳ですから、ブロック療法を行えば、完全に痛みを取り除けます。
ただし、麻酔は可逆性ですから、その効果は経過と共に回復します。しかし、ブロック療法は慢性疼痛により障害された決行を改善し、疼痛部位に停滞した発痛物質を洗い流し、悪循環を立ち切ることで改善を認めます。
ペインクリニック外来を受診した方に、薬物療法、理学療法およびブロック療法を用いる事で、手術が必要な方を50人に1人と減少させることが可能となりました。
Q. 癌には効くのですか?
A. ブロック療法は元来痛みを取り除くものですから、癌自体への効果はありませんが、癌末期に伴う痛み(癌性疼痛)には著効を示します。
癌性疼痛に対するWHO(世界保健機構)プログラムでは麻薬投与が主体ですが、ブロック療法により麻薬投与を中止にする事、即ち無痛になる事も可能です。
Q. ペインクリニックでは全ての患者にブロック療法を行うのですか?
A. 全ての患者に施行する訳ではありません。たとえば、帯状疱疹神経痛があります。帯状疱疹は「オビクサ」との名称でよく知られ、神経領域に一致した皮疹と痛みが特徴ですが、通常皮疹治癒に伴い消失する痛みが消失せず、痛み遷征する病態を帯状疱疹後神経痛と称します。
高齢者が多く、長期間痛みに曝された状況に、完全な除痛をもたらすブロック療法を施すと、病院漬けとなり、社会復帰がかえって遅れてしまいます。この場合、病態に則した薬物療法を第一選択とし、強い痛みの場合のみ、ブロック療法を行っております。
Q. ブロック療法は痛み以外でも使えるのですか?
A. くしゃみ、鼻水、鼻づまりのアレルギー性鼻炎は、アレルギーが原因ですが、全く同じ症状を交感神経の働きすぎ(交感神経過緊張)、いわゆるストレスを原因とする血管運動性鼻炎も呈します。
現在の優れた抗アレルギー薬をもってしても症状がなくならないのはどうしてでしょうか。窓を閉めきっている訳で、抗原量は変わらないはずなのに、朝目覚めると急に顕著な症状が表われる。いわゆるmorning attackと呼ばれる現象をどのように説明するのでしょうか。
つまり病態はアレルギーだけでなく、ストレスも関与していると言う事なのです。鼻炎症状以外の鼻周囲の不快感も、交感神経過緊張が惹起する非定型的顔面痛症状で説明可能で、交感神経過緊張は、唯一ブロック療法のみ治療可能です。
花粉症と呼ばれる病態はこのように複雑ですが、薬物療法とブロック療法を併用する事で治療可能です。
併用の利点は「(1)予防的な抗アレルギー薬の服用の必要がなく眠くならない。(2)弱い薬効で済すため後発薬品が用いれ、安価である。(3)ブロック療法を用いるとそれまで蓄積されたストレスが0になるので、蓄積まで時間がかかり、年々症状が楽になる。」などが挙げられます。
Q. 運動神経もブロック療法の対象ですか?
A. 表情筋の痙攣で目が開けられない眼瞼痙攣、頬や口がひきつり顔がゆがむ顔面痙攣や突然首が曲がってしまう痙性斜頚は嘗てブロック療法が主たる治療法でした。現在は、薬物療法を第一選択と考えています。
ただし、この薬剤を使用できる施設は限られています。3ヵ月間有効です。もし抗体が産生され、一度効かなくなってしまうと、以後全く効果を示しません。この場合、ブロック療法を行います。横隔膜の痙攣でおこる頑固な吃逆(しゃっくり)は、ブロック療法が第一選択です。
反対に眼が閉じれない、口元が下がる、水を飲むとこぼれると言った症状を示す顔面神経麻痺は、ブロック療法の良い適応です。薬物療法の併用で高い治癒率が得られます。陳旧例では形成外科手術を併用する事があります。
上眼瞼(上まぶた)が下がって、目が大きく開けられない眼瞼下垂は、目を開ける眼瞼下垂の老化によりおこりますが、形成外科手術をまず行います。頭痛、不眠、肩凝りなど交感神経過緊張による不定愁訴が軽減しない場合にブロック療法を行います。
Q. 今回は岐阜市の外科、卯月医院の加藤利政先生に、「外来での麻酔科の仕事」についてお話し頂きました。ありがとうございました。
A. ありがとうございました。

保険でできる美容形成外科手術(5月16日金曜日)
Q. = 司会 / A. = 加藤

Q. 今回は岐阜市の外科、卯月医院の加藤利政先生に、「保険でできる美容形成外科手術」についてお話し頂きます。よろしくお願いします。
A. よろしくお願いします。
Q. 美容形成外科手術で保険が使えるのですか?
A. 正確に言うと、美容外科手術では使えません。形成外科手術なら使えます。理由は、美容外科手術の目的が疾病治療ではなく美容整容だからです。
さてここに上眼瞼(上まぶた)が一重で、睫毛内反症(さかまつ毛)の方がいたとします。「二重にしたい。」と美容外科手術を受けると、目的が美容整容なので、保険の対象外ですが、「睫毛内反症を治したい。」と形成外科手術を受けると、目的が疾病治療なので給付対象になります。同じ術式(方法)なので術後結果に差はなく、二重になり、睫毛内反症はなくなります。
同様な例として、陥没乳頭があります。外観で美容外科手術を受けると、目的が美容整容なので、保険の対象外ですが、授乳障害の既応があれば、目的が疾病治療なので保険給付対象の形成外科手術が受けられます。同手術ですから、同結果です。
つまり、形成外科でも美容外科と同じ手術を行っており、形成外科では保険が使えるという事です。術後結果が美容の面で美容外科手術の方が優っていると思われるかもしれませんが、形成外科手術でも美醜の面を大変重視しており、差があるとは考えておりません。
Q. 二重にして、睫毛内反症(さかまつ毛)を治すのは、どうやるのですか?
A. 上眼瞼(上まぶた)に小切開を数ヵ所加え、同部と睫毛(まつ毛)の近くにある硬い組織である瞼板を縫い、その結目を切開部に埋没します。
しかし、この術式が全ての患者に用いられる訳ではなく、目頭から目尻まで皮膚切開を加え、余剰な皮膚を切除し、目を閉じる筋肉の眼輪筋と余分な脂肪を取り除いた後、切開部を縫いあわせる事もあります。これを眼瞼内反症手術と言います。
Q. 陥没乳頭の手術はどうするのですか?
A. 陥没した乳頭(乳首)の側壁に3ヵ所切開を加え、短縮した乳管を伸展して陥没を解除した後、同部にZ形成術を施し、再陥入を防ぎます。これを陥没乳頭形成術と言います。抜糸後、しばらく搾乳器を用います。
Q. 手術をしない形成外科処置もあるのですか?
A. 下肢静脈瘤硬化療法があります。静脈には弁があり、筋肉を動かすことで心臓に向かう静脈血の逆流を防いでいます。
弁がうまく働かないと逆流のため異常な怒張(ふくれる状態)をきたします。「こぶ」のように見えるため静脈瘤と言いますが、多くは下腿(ふくらはぎ)にでき、痛みも伴います。
ここに薬物注射を行い、固めてしまう方法です。網目状やクモの巣状静脈瘤には極めて有用です。
Q. 保険が使える形成外科手術は他にもありますか?
A. 眼瞼下垂症手術があります。眼瞼挙筋は開眼(目を開ける)時に働く筋肉ですが、老化によりおとろえが生じると、後退して開眼に支障が生じます。
大きく開眼するために前額筋(ひたいの筋肉)を用い、眉毛(まゆ)を挙上させます。このため額に皺が生じ、目が窪みます。また開眼の微調整を行う上眼瞼(上まぶた)の結膜側にあるMuller筋を司る交感神経の過活動(働きすき)をきたし、うつ状態、不眠、顔面の不快感、頭痛、肩凝りなど多彩な訴えが生じます。
指先でしばらく上眼瞼を持ち上げ、開眼を助けるだけで先ほどの症状が消失すれば、診断可能です。術式は眼瞼挙筋前転法を用います。眼瞼内反症手術で述べた切開法に加え、後退した眼瞼挙筋を前に引き出します。
老化は避けられないので、かない頻度の高い疾患です。先天性の眼瞼下垂でも同じ術式を用いますが、強度な例では、前額筋の収縮を更に利用する筋膜移植術を行う事もあります。
Q. 顔で他にもありますか?
A. いびきに対しての軟口蓋形成術があります。のどの奥にある軟口蓋を切開し、鼻から楽に息ができるようにします。
この術式は睡眠時無呼吸症候群の治療にも用いられます。内科的には在宅持続陽圧呼吸法が用いられますが、鼻に特殊なマスクを装着する姿を嫌う例や口渇などで無意識にマスクをはずしてしまい、精神的苦痛のみ残る例もあるようです。
自験例ですが、術後の無呼吸や低呼吸は1/2〜1/3まで低下し、日中にねむくなる傾向も消失しております。
Q. 機能改善の手術もあるのですね。
A. 花粉症の手術も機能改善型です。鼻づまりが強度な例に用います。鼻の粘膜を各種方法で焼く事で活動の場をなくします。粘膜は必ず再生するため、薬物療法は必要です。
Q. 体でもあるのですか。
A. 腋臭症手術があります。いわゆるワキガの治療法です。皮膚に常駐する細菌が皮膚の老廃物などを、汗を培地として分解する際発生するにおいが原因です。
元来異性を引きつけるものが、現代人の鼻の機能低下により嫌な刺激臭と感じられるようになってしまいました。手術は皮膚を切開して裏がえし、汗腺を除去する皮弁法が有用です。毛根を除去する為、脱毛がおこります。
Q. 前回、今回の話を伺う前には、麻酔科・形成外科と言うと何か特殊な科と言ったイメージがありました。
A. 麻酔科は外来でペインクリニック、すなわち慢性的な痛みを取り除いております。形成外科では美容外科と似た手術も行っております。決して特別な科ではありません。
今回、両科の啓蒙の機会を頂き、ありがとうございました。両科の御理解を頂けますよう、更に努力してまいります。
Q. 今回は岐阜市の外科、卯月医院の加藤利政先生に、「保険でできる美容形成外科手術」についてお話し頂きました。ありがとうございました。
A. ありがとうございました。