ラジオホームドクター

診療科 出演者 放送日 テーマ
【内科】 古川病院
蒲池 誠
(かまち まこと)
3月5日
木曜日
高齢者のリウマチ性疾患
3月6日
金曜日
知っておきたい認知症の3パターン

高齢者のリウマチ性疾患

今日は高齢者のリウマチ性疾患についてお話します。
リウマチ性疾患とは発熱・関節炎が主体の自己免疫疾患、膠原病ですが、わざわざ"高齢者”とタイトルに書いたのには訳があります。

"リウマチ"というと皆さんまず関節リウマチを連想されますが、60歳以上では関節リウマチは起こらないんです。つまり、60歳以上と60歳以下では発生するリウマチ性疾患が全く異なるのです。そして、60歳以上のリウマチ性疾患には一般の方が聞いた事が無い病気が多いのです。例えば、発熱・筋肉痛・関節痛の病気である、リウマチ性多発筋痛症や偽の痛風と書いて偽痛風またはアルファベットでRS3PE症候群といったものや、血管炎という病気がありますが、聞き慣れない病気というのは”想定外”の病気ですので、まず”おかしいな?”と疑い受診することが治療の第一歩です。

実は、血液検査や画像診断だけでは高齢者のリウマチ性疾患の診断確定の決め手とはならないのです。リウマチ因子”や”CCP抗体”といった血液検査での診断の指標が高齢者のリウマチ性疾患には無いのです。ですから、診断の決め手になるのはどのように病気が始まってどのように悪くなったのかの病状経過なんです。病状経過のポイントについてお話しまが、まず第1のポイントは
いつから病気が始まったかがはっきりしているかどうか、です。
高齢者のリウマチ性疾患では大抵の場合、熱が出たり、関節が腫れて痛くなったりして病気が始まります。そこで、”いつから具合悪いんですか?”とお尋ねすると、”先月の上旬から関節が腫れて・・”とか”朝起きたら両足が腫れてて・・”とか、病気の始まりが週や日時の単位でわかる場合が多いのです。一方、普通の関節リウマチではせいぜい月単位でしか解りません。
第2に高齢者のリウマチ性疾患では熱の割りには元気なことが多いのです。
例えば38度くらいの熱が出ても、割と普通にご飯を食べていたりします。これが仇となって、受診が遅れることがあります。一方、細菌感染症も病気の始まりがハッキリしていますが、細菌から毒素が出るので熱が大したことが無くても元気が無く、ぐったりして食欲が無いなど全身状態が悪くなります。
こうした病状経過の情報に加えて、血液検査、レントゲンやCT検査などで他の疾患の可能性を除外してより確かな診断が可能となります。

典型的な具体的症状についてですが、例えば、リウマチ性多発筋痛症では、首から肩にかけて急に痛くなって熱が出た、そのうち膝も痛くなった、熱はあるが平気でご飯を食べていますとか、また、RS3PE症候群では、朝起きてみると両方の足が同じようにむくんでいて、翌日にはパンパンに腫れて指で押すと痕が付くようになった、などの具体的な病状経過が診断・治療に直結する場合があるのです。以上の病気の治療には鎮痛剤や比較的少量のステロイドを使いますので、診断が付けば外来治療が可能です。

最後に血管炎ですが、この病気では血管自体に炎症が起きます。関節や筋肉はなんとも無いので、熱が出るだけで他に何も症状が無く比較的元気なことがあるのです。つまり見落とされやすいのです。
さて、高齢者に多い血管炎では、側頭動脈より細い血管に炎症が起こることが殆どです。この側頭動脈とは、左右のこめかみにある血管で、ここで心臓の拍動を触れることができます。ここの側頭動脈に炎症が起こると、頭痛が起きたり、目の網膜に血液が流れにくくなるので視力低下が起こったりします。高齢者の原因不明の発熱の16%はこの側頭動脈炎によるとの報告もあります。また先に述べたリウマチ性多発筋痛症の20%にこの側頭動脈炎が合併すると報告されています。ですので、高齢者の発熱では見落とせない病気の一つです。
また、腎臓の毛細血管に炎症が起こると顕微鏡的多発血管炎になります。この顕微鏡的多発血管炎では発熱以外に症状のないことが多いのです。例えば38度位の発熱が続くが本人はいたって元気・・・とかの場合には必ず念頭に置くべき病気です。腎臓の毛細血管つまり糸球体に炎症が持続すると3〜4ヶ月で腎不全になる場合もあるため、元気だから大丈夫ではなく要注意なんです。
この血管炎の場合、内服でも50mg程度の大量のステロイド治療が必要なので大きな病院での入院治療が絶対に必要です。


知っておきたい認知症の3パターン

アルツハイマー型認知症については比較的良く知られていますが、これ以外の認知症についてはあまりよく知られておらず、またアルツハイマー型認知症とは症状が全く違うので、御家族が認知症と気付きにくい場合があります。知っておくべき認知症の3パターンとは、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症とピック病です。

認知症の約60%がこのアルツハイマー型認知症です。
この病気の方は、身だしなみ、表情、会話の口調など全体の印象が全く普通なので、周囲も御本人も病気に気付きにくいのです。記憶障害が主ですので、病気の初期では置き忘れが起こります。眼鏡、テレビのリモコンなど身の回りの小物の置き忘れが多くなります。また、同じ話を繰り返し話したりする事が多くなったりします。本人は自分の行った行動そのものを覚えていないので、そうした自分の記憶の欠如を誤魔化すために作り話をするのが普通なのです。そうすると周囲はこれに振り回されます。御本人も大変ですが、周囲の家族はもっと大変かもしれません。しかし、御本人には”自分には記憶障害がある”との自覚が全く無いので、”最近物忘れが在るようなのでお医者さんに見てもらいましょう”とストレートに言うとまず受診されません。ですので、”いつまでも元気でいてもらいたいから、チョッと健康診断をしてみましょう”とやんわりと外堀を埋めて受診するのが良いかもしれません。御本人に病気を納得していただく、つまり内堀を埋める作業はドクターに事情を話しておまかせするのが最短距離です。

次に、認知症の約20%のレビー小体型認知症についてお話します。この病気はパーキンソン病に似ていて、アルツハイマー型認知症とは外見の印象や症状や大きく違います。
この病気ではパーキンソン病と同様にドーパミンという脳内物質が不足しています。ドーパミンとは心をウキウキ・ドキドキさせる物質です。例えば、海外旅行の前日に心がウキウキして寝付かれないという時にはドーパミンが多く出ています。このような精神の高揚感がこの病気の方には無いので、全体的に真面目で暗い印象があります。つまり、感情の起伏に乏しく、表情も能面のようで変化に乏しいのです。
また、調子の良い時と悪いときの落差が大きく病状の変動が激しいのがこの病気の特徴です。さらに、昼間に眠ることが多くなり、表情もうつろで会話中も視線が合わないなど意識の低下が見られます。歩き方も前かがみで小刻みのパーキンソン様歩行です。夜中に寝言を言ったり大声で叫んだりすることもあります。特に忘れてならないのが薬剤過敏性です。つまり、少量の睡眠薬や風邪薬でも効き過ぎて昼間まで寝てしまう事があったりします。つまり、認知症の治療薬も効き過ぎてしまう事が在るので、レビー小体型認知症の治療では細かくお薬を微調整する必要があり、なかなか大変な病気です。

最後にピック病について話します。
この病気は前頭・側頭型認知症の一部です。前頭葉は自発性や理性的コントロールを行う場所です。この前頭葉が萎縮すると自発性が低下したり感情や欲求のコントロールが効かなくなります。これがピック病の本態です。
自発性が低下すると、自分から何もしなくなり、身だしなみが無頓着になり、だらしない格好になります。周囲にも無関心になり集団行動が苦手となります。そして同じ日常行動を繰り返します。たとえば同じ場所をグルグル歩いているとか、いつもソファに座る定位置が決まっているとかです。これを”常同行動”と言います。ですのでピック病の方は自分の世界を持った”少し変わった人”と思われる場合があります。この常同行動を妨げると、突然スイッチが入ったように暴れます。ピック病の暴言や暴力も自分の世界である”常同行動”が妨げられて起こります。また、食欲のコントロールが効かないので、食事をかき込んで食べたり、いつも同じものを食べたりすることがあります。
分別さかりの人が万引きを繰り返す場合もピック病の”脱コントロール”による可能性が高いのです。ですので、ピック病の治療は前頭葉に適度にブレーキをかけることが主眼となり、介護も御本人の生活習慣を妨害しないで、好ましい方向に上手に誘導する事がポイントになります。

以上認知症の3パターンについてでしたが、まず認知症に気付きそして地域の認知症ネットワークをうまく使って、一人でかかえこまずに”総力戦”で事に当たるという姿勢が重要です。